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東京大学過去問1993年(5) 解答


[全訳]
 私がマンジャロッティの元で働き始めてからそれほど経っていないある日、彼は言った。「今日の仕事は終わりだ。片付けてくれ。10分で戻ってくるから」前もって何も言わずに事を起こし、人々を突然驚かせるのが、彼の常だった。私はハケを丁寧に洗った。それにほんのわずかでも絵の具が残っていようものなら、マンジャロッティが怒鳴り散らすに違いないことが、私には分かっていたのだ。正確に言うなら、私は彼が怖かったというのではない。ただ彼は口が酷く悪かったので、私は彼を怒らせないようにしていたのだ。私は全てを適切に(つまりマンジャロッティ式に)片付けた。ハシゴは左、バケツは右に、などという風に。
 15分ほどで車がやってきた。その古い黒のシトロエンの運転席にはマンジャロッティが乗っていた。彼の顔はいつも通り憂鬱だった。
 「さあ、乗れ」彼は言った。私がドアを閉じるやいなや、車はタイヤを軋ませて急発進した。
 「どこへ行くんですか?」私は尋ねた。
 彼は何も答えなかった。黙っていろと伝える彼のいつものやり方だった。私はシートにゆったりとくつろいで、出来る限りドライブを楽しむことに決めた。結局の所、店先を塗りながら梯子の上に立っているよりは、ずっと快適なのだった。どこに向かっているのか、全く思い当たる所はなかったが、しばらくするとパリを抜け、開けた郊外に出た。これまた例の突然さで、マンジャロッティは道端に車を急停車させ、エンジンをきった。私は彼を見た。彼は正面をじっと見据えていた。私は彼の視線を追ったが、田舎道と道に沿った生垣しか見えなかった。
 道路脇の芝で何かが動いた。それは帽子だった。古い黒いホンブルク帽。かつてはビジネスマンがよくかぶっていた帽子。それが生きているように動いていた。前に動き、止まり、引っ込み、すぐにまたぴょこんと現れ、前に動き、また引っ込むのだった。あまりにもバカバカしい光景だったので私は吹き出してしまったが、マンジャロッティは帽子を見つめ、真剣な表情のままだった。
 私がもう一度目を向けると、帽子は数インチ上に上がり、その下に頭があることが分かった。どうやら道路脇の芝と生垣の間には溝があるようで、帽子の主は溝の中にいるようだった。マンジャロッティは車から降り、不思議な帽子の方へ歩いて行った。彼について行くべきか、車に残るべきか分からなかった。好奇心に負けて、私は車から降りて、急いで彼を追いかけた。彼は道路脇に立ち、帽子を見下ろし、私には理解できないイタリアの方言で、帽子に向かってぶっきらぼうに話しかけていた。私も溝を見下ろすと、帽子の下に、老人の皺の寄った赤ら顔が見えた。その男は、暑い夏の午後だったにもかかわらず、古臭いハンブルク帽にぴったり調和する、毛皮の襟の黒いオーバーコートを着ていた。驚いたことに、彼は立ち上がっているのに、頭はやっと溝の上に出ている程度だった。彼は極端に背の低い男で、老年の曲がった腰のせいで、余計にその背丈は小さく見えた。
 マンジャロッティはその老人に手を貸し、乱暴に、まるで藁の人形か何かのように、彼を溝の中から引き上げた。そして私達は車に乗り込み、パリへと戻っていった。


[単語・熟語 level A]


[単語・熟語 level B]


[解答]
(1) ウ
(2) mind
(3) エ
(4) all
(5) laughing
(6) イ
(7) エ
(8) ペンキ屋
(9) ハ、へ


[解説]
*解答をE-mailで送って頂ければ採点して返信します。E-mail:info@exclusive-academia.com

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