(1) | 地球上で環境的に最も過敏な地域の一つに有害物質が流出した事で、2つの大陸の野生生物が危険に晒されている。被害地域はドニャーナ国立公園である。それは南スペインの都市セビリャから海に向かって、南に約100キロ延びる湿地帯を含んでいる。 |
(2) | ドニャーナは野生生物にとって極めて重要な土地である。夏の間北欧、特にスカンジナビア半島で過ごした多種の鳥が、北方の厳しい寒さを逃れるために、この辺りの湿地にやって来て、早秋から早春までを過ごすのである。この公園はまた、稀少なイベリア皇帝鷲が見られる最後の場所の一つである。更に、この公園とその周辺は、スペインを通り過ぎて、南方のアフリカと例えばイギリスのような北方のヨーロッパを毎年渡りする、多種の鳥たちの主要な休息地になっている。 |
(3) | 4月25日の早朝、大惨事が起きた。セビリャ北西部の鉱山工場で、廃棄物貯水地のダムの壁が崩壊したのである。重金属や他の有害物質を含んだ約158000トンの廃棄物がグアディアマー川に流れ込み、国立公園へ下ったのである。 |
(4) | この事件はおよそ一週間の間に、新聞の一面から消えてしまった。一つには、廃棄物がセビリャ自体には被害をもたらさなかったからである。(グアディアマー川は町の少し西を流れている。)また一つには、有毒な灰色の泥土の大部分が、ドニャーナの中心部に到達する前にせき止められたからである。国立公園のたった3パーセントが覆われたに過ぎなかった。しかしその災害の影響は南スペインのあらゆる生命に入り込んでいる。 |
(5) | 影響のいくつかは比較的小さなものである。例えば、今月行われるエル・ロシオの街の年に一度の真夏の祭りのために、セビリャから伝統的な幌場車や馬の背に乗ってやって来る巡礼者達は、グアディアマー川を渡る彼らのいつものルートを取らないよう、警告された。代わりに、未だ川の堤防を覆っている有毒な廃棄物の層を避けて、幹線道路を通らなければならなくなった。 |
(6) | この廃棄物は現在除去中であり、その任に当たる政府の機関は、一日1万平方メートル弱という現在のペースでいけば、10月27日までに表土から全ての廃棄物を除去できると見積もっている。 |
(7) | しかし鳥類保護英国王室協会は、その地域が回復するには25年もかかる可能性があると考えている。あるスポークスマンは「これが今世紀のヨーロッパにおけるこの種の事故として、最悪なものと判明する恐れがある。」と述べた。 |
(8) | 彼は、1989年のエクソン・バルデスのオイルタンカーの大惨事は、一般に単体の事故としては世界最悪のものであるとされているが、今回被害を受けた鉱山の貯水池から流出した有害物質の重量は、エクソンの事故で流出したものの約4倍にも達すると指摘した。そのスポークスマンは、セビリャ周辺地域は、野生生物にとって重要であるだけでなく、長い歴史と豊かな文化的伝統を有しているのだと言った。エル・ロシオ周辺の宗教上の祝祭はそのほんの一例に過ぎない。事故がこうした伝統へ悪影響を及ぼすのは、とても残念だと彼は言った。 |
(9) | しかしこの災害の規模の大きさにもかかわらず、不安視していない専門家もいる。事態がこれまで通りならば、危険な影響が広範囲に及ぶ可能性は低い、と国立公園の長官は言う。しかし彼は今や少数派である。スペインの環境圧力団体の一体感の無さは有名だが、それらが一致して宣言している。つまり異常な自然のせいで、現状は地域や国の権威が主張するよりもずっと深刻であるという宣言であり、災害は被害が遅れて出る可能性が十分にある、というのである。 |
(10) | 「重金属の性質は、最初は目につきにくいのです」とスペイン自然保護協会で働くある科学者は言う。「それらは体内に入って、ゆっくりと様々な問題を引き起こすのです。成長、性的成熟、脳、免疫システムに影響を及ぼします。そしてある種の癌を引き起こすこともあります」 |
(11) | したがって、有毒物質がグアディアマー川に流れ込んだ時に死んだ動物や鳥や魚は、災害による死の最終的な総数のごく一部に過ぎないという可能性がある。というのも、有毒物質は食物連鎖を上昇し始めた所に過ぎないからである。その地域に魚や貝を捕食しに飛来するアジサシやカイツブリや鵜といった鳥たちは、特に危険である。 |
(12) | 現時点では公園内の鳥の数は比較的少数である。多くの鳥は流出事故が起きた時、春と夏を北ヨーロッパで過ごすために南スペインを出発したばかりだった。しかし、おそらくはアオサギを端緒として、それらは8月に帰還し始める。しかし有識者でさえ、それまでに泥を除去できるとは考えていないのである。 |
(13) | そうこうしているうちに亜鉛、鉛、銅、銀といった泥の中の金属が土壌に染み込んでいき、人間に対する脅威となるだろう。スペイン青年農家組合によると、食用の穀物を育てている数百エーカーの土地が汚染され、危険な状態になってきているという。それらの土地は廃棄物に覆われてはいないが、汚染されているかもしれない井戸の水を使用している。 |
(14) | もし廃棄物に含まれる重金属が国立公園地下の帯水層に浸透したら、災害を超える大惨事が引き起こされるだろう。帯水層27と呼ばれるものが地中200メートルもの深さに存在し、面積は5200平方キロメートルに及ぶ。そしてその地域の安寧はこの巨大な地底湖にかかっているのである。 |
(15) | 初期の調査では有毒物質はそこまで浸透していないという結果であった。しかし誰も確信は持てない。スペイン科学研究委員会の会長が言ったように、「最初の分析で帯水層が汚染されているという数値が出なかったからといって、以後も汚染されないとは言えない」のである。 |