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東京大学過去問2006年(5)解答


[全訳]
 数ヶ月前、私がニューヨークの通りを歩いていた時、遠くから私のよく知っている男がこちらに歩いてきた。困った事に、私は彼の名と、彼と出会った場所を思い出す事ができなかった。これは地元で知り合った人と、慣れない町で偶然出くわした時に、あるいはその逆の場合に、特に感じる例の感覚である。脈絡のない顔が突然現れる事が、混乱を引き起こすのである。にもかかわらず、確かに知った顔なので、立ち止まり、挨拶し、話しかけねばならないと感じるのである。おそらく相手は「やあウンベルトさん、ご機嫌いかが?」などと即座に返答するのだ。さらに困った事に「前に君が言ってた例のやつ、あれはできたのかい?」などと言いだすかもしれない。そしてこちらは途方にくれる事になるだろう。しかし逃げるにはもう遅い。彼はついさっきまで道の反対側を見ていたが、今や目線をこちらに向けようとしている。私も動き出した方がよさそうだ。彼に手を振り、彼の声と最初の発言から、彼の事を思い出してみるしかない。
 私達はもう互いに数フィートの距離だった。わたしは最高に愛想の良い表情を浮かべようとした所だった。そしてその時突然思い出した。それは有名な映画スターのアンソニー・クインだった。当然私は彼に会った事などなかったし、彼も私を知らないに決まっている。千分の一秒で私は自らを抑えた。そして宙を見つめて、彼の脇を通り過ぎた。
 後になってこの出来事を思い返してみて、いかにありふれた事だったのかに気が付いた。以前レストランで、チャールトン・ヘストンを見かけて、声をかけたい衝動に駆られた事がある。こうした顔は私達の記憶に刻み込まれている。映画の中で、私達は長い時間その顔を見て過ごしているので、親戚の顔のように、あるいはそれ以上に親しく感じてしまうのである。マスコミについて学べば、現実性の効果あるいは現実と幻想の混同について議論し、こうした混同から抜け出せなくなる人について説明できるだろう。しかしそれでも自分自身がそうした混同に陥る可能性は常にあるのだ。
 映画スターとの間で起きた事は、もちろん全て私の頭の中だけの問題だった。しかしもっと困った問題もあるのだ。
 比較的よくテレビに出ており、ある程度の期間マスメディアと関わってきた人々から、私は話を聞いたことがある。最高に有名なスターと言うわけではないが、それなりに有名な人物であったり、人から顔を覚えられる程度にはトークショーに出ている専門家のような人々である。彼ら全員が同じ不快な経験があると言うのである。暗黙のルールとして、個人的に面識のない人に会った時、私達は遠くからその人の顔をジロジロ見ないし、その人を指差して近くにいる人に教えたりしないし、その人が聞いているのにその人について話したりはしない。そのような振る舞いは失礼であり、行き過ぎれば、侮辱である。しかし普段は、店の客を指差して、友人に「あの人、洒落たネクタイしてるよ」などと絶対言わないような人が、有名人を見かけると豹変するのである。
 私の比較的有名な友人が言うには、売店や本屋や、電車に乗ろうとしてる時や、レストランのトイレに入ろうとしている時、大声でこんな事を言う人がいるらしい。
 「見ろよ。あれXさんだよ」
 「本当か?」
 「本当だよ。Xさんだよ。間違いない」そして彼らは楽しく会話を続け、Xさんに聞こえているにもかかわらず、それを気にもとめないのである。その振る舞いはXさんがそこにいないかのようである。
 そうした人々は、マスメディアという幻の世界の人間が、不意に現実世界に入り込んで来た事に困惑しているのであるが、同時に、その人は現実の人間としてそこにいるのにもかかわらず、まだ想像の世界に属しており、映画か週刊誌の中に存在しているかのように、扱ってしまうのである。彼らはゴーストと話している感覚なのである。
私はアンソニー・クインの手を取り、彼を電話ボックスに引っ張っていき、友達にこう言えば良かったかもしれない。
 「すごい事が起きたんだ。私はアンソニー・クインと一緒にいるんだ。そしてなんと彼は本当に生きているみたいなんだ!」その後私はクインを解放して、自分のことについて話し始めるだろう。
マスメディアは最初、非現実が現実だと我々に信じ込ませようとした。そして今では現実が非現実だと感じさせる結果になっている。テレビ画面のリアリティが増せば増すほど、我々の日常世界は映画化するのである。そして私達は、ある哲学者が主張したように、我々は世界にたった一人であり、その他の一切は神か悪魔が我々の眼に映した映像に過ぎない、などと考えるに至るのである。


[単語・熟語 level A]


[単語・熟語 level B]


[解答]
(1) (1a) ア
 (1b) オ
 (1c) イ
(2) イ
(3) ア
(4) ウ
(5) familiar to us than our relatives' faces
(6) 有名人に出会い、本人の目の前でその人について話すこと。
(7) ア
(8) ア
(9) イ
(10) absence
(11) その後私はクインを解放して、自分のことについて話し始めるだろう。
(12) ウ


[解説]
*解答をE-mailで送って頂ければ採点して返信します。E-mail:info@exclusive-academia.com

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