東大卒プロ講師限定の家庭教師派遣
エクスクルーシブ・アカデミアexclusive-academia
E-mail:info@exclusive-academia.com


東京大学過去問2007年(5) 解答


[全訳]
 レベッカの母はバスが到着した時バスターミナルの外に立っていた。日曜の朝の7時35分だった。彼女は疲れているように見えた。「バスの旅はどうだった?」
 「オハイオに着くまで眠れなかったわ」レベッカは応えた。彼女は深夜バスでニューヨーク・シティから帰って来たのだ。母の車まで歩いていく途中には、ミシガンの初夏の懐かしい香りが空気中に満ちていた。「でも元気よ」
 母の運転で家までの12ブロックを通り過ぎていく間、レベッカは窓の外を見ていた。町はほとんど荒廃していた。メインストリートのかつてデパートがあった所には靴のディスカウントショップができて、ドラッグストアはクリーニング店になっていた。しかしファーストフード店(ボーナスバーガーやピザディライトやタコタイム)は記憶に残っている通りで、レベッカが育ったウィロー通りの家々も昔のままだった。母の家の二軒先の家だけは以前と違って見えた。
 「ウィルソンさんの家はどうしたの?」レベッカは尋ねた。「壁を塗り直したか何か?」
 「あの人達はケンタッキーに引っ越したのよ」母は応えた。
 長い沈黙があった。レベッカは母がまだ以前のような陽気さを取り戻していないのだと悟った。
 「誰かが越してきたみたいだけど」母が私道に停車し、2人は車から降りた。
 2人が帰った時、家は空っぽだった。レベッカの義父であるヘンリーは化学工場の朝シフトで働きに出ていた。彼は午後も半ばにならないと帰ってこないはずだった。レベッカはスーツケースを運んでダイニングルームを通り抜ける時、壁に掛かった彼女の双子の兄であるトレイシーの写真を見ないようにした。
 「私は教会に行かないといけないわ」母が言った。「もしあなたが後で車を使いたいなら、私は正午までには帰ってくるから」
 彼女が子供の頃寝ていた寝室は改装されていた。ベッドは新しく、カーペットは緑からグレーに変えられ、天井からはヘンリーのコレクションである飛行機の模型が吊り下げられていた。廊下を進むと、トレイシーの昔の部屋の扉が閉じていた。何年も前からそうであるように。
 レベッカはスーツケースをベッドの横に残してキッチンに入っていった。そして自分でコーヒーを作って、テレビをつけて、座ってクイズ番組を見た。

  ******

 その日の午後、レベッカは母の車を借りて郊外のショッピングモールに出かけた。そのモールはレベッカが生まれる前から営業していた。彼女が高校生の時には、そのモールが町中で一番面白いスポットであり、彼女は友人達と、夜遅くに閉店するまでブラブラして過ごしたものだった。しかしブルックリンに住みマンハッタンで働いた年月はレベッカのものの見方を変えてしまっていて、そのモールは平凡でつまらないものにしか思えなかった。日曜の午後であるにもかかわらず、各店舗にはほとんど客が入っていなかった。
 彼女はシャンプーとコンディショナーを買った。母は彼女が使っているようなものを持っていなかったからだ。そしてフードコートのテーブルについてソーダを啜った。子供達はテーブルの間を駆け回り、母親達は近くでお喋りをしていた。彼女は仕事の後にほとんど毎晩通っていたカフェのことを考えた。それはブロードウェイのすぐ東の35番街の、スウェーデン風のベーカリーとサーカスの備品を売る店の間にあった。店員の1人は18歳か19歳の少年で、いつも彼女の注文を覚えていて、彼女が入店すると満面の笑みで迎えるのだった。彼女は隅のテーブルに座り、あらゆる年齢、あらゆる国籍、あらゆる服装やヘアスタイルの客が入っては出ていった。そうして彼女は、自らがそうした豊かな文化の織物の中に編み込まれた一筋の糸であることに、興奮を覚えていたのだった。
 レベッカが立ち去ろうとして立ち上がりかけた時、母親達の1人が彼女の方に近付いてきた。
 「レベッカ?」と彼女は言った。
 レベッカは一瞬戸惑った。それから「ジュリア!」と叫んだ。彼女は立ち上がり、2人は抱き合った。「最初は見分けが付かなかったわ」
 「本当に久しぶりね」
 トレイシーの追悼式以来だわ、とレベッカは思った。
 ジュリアは座った。「あなたはまだニューヨークに住んでいるの?」
 「そうよ」とレベッカほ応えた。「今はほんの数日の間、帰省してるの。でもミシガンに戻って来ようかと考えているわ」
 「なぜ?あなたはニューヨークが好きなんだと思っていたわ」
 「うーん、私のルームメイトが結婚して出ていくの。だから新しいルームメイトを見つけるか引っ越しをしないといけないの。あっちは家賃がとても高いから」
 「そうらしいわね」
 「義父が言うには、化学工場の事務の仕事を私に紹介できるらしいの。明日そこの面接を受けることになってるのよ」
 「それは素晴らしいわね」そしてジュリアは一瞬ためらって言った。「あなた誰か付き合っている男の人はいるの?」
 「いないわ」レベッカは応え、それから訊いた。「ジェリーはどうしてる?」
 「彼は元気よ。相変わらずお義父さんの所で働いているわ。今日は彼が釣りに行ってるから、子供たちが走り回ってもいいようにこのモールに連れてきたのよ」
 レベッカとジュリアは高校時代の友達だった。ジュリアはトレイシーと真剣に付き合っていたけれど、高校を出てから別れてしまった。トレイシーがアフガニスタンで戦死した時、ジュリアはもうジェリーと結婚していた。

  ******

 その日の夕食の席で、ヘンリーは工場で起きた事故の話をした。「それから分解装置が過熱して、それにも対応しなくちゃならんし、還流ラインも洗い流さなくちゃならなかったんだ」10代の子供だった時以上にヘンリーの言っていることが理解できず、レベッカは戸惑った。彼女も母もあまり話さなかった。食後、レベッカはヘンリーが皿を洗って片付けるのを手伝った。彼はレベッカの母と結婚し、レベッカとトレイシーが11歳の時に引っ越してきた。本当の父はその3年前に出ていってしまっていた。レベッカはその本当の父には20年会っていなかった。
「お前が明日の11時にオフィスに来るとボスに伝えておいたぞ」とヘンリーは言った。「俺がお母さんを仕事に連れて行くから、お前はお母さんの車に乗っていっていいぞ」
「ありがとう」
「彼はお前を雇う前に一度会っておきたいだけなんだ。給料のことはきかなかったが、多分悪くないだろう。お前の前任の女の子が文句を言ってるのは聞いたことがないからな」
 夜の早い時間帯にバス旅行の疲れを感じ、レベッカは母とヘンリーにおやすみを言ってベッドに入った。すぐに眠りに落ち、熟睡した。午前4時頃、辺りはまだ薄暗くひっそりと静まり返る中、レベッカは目を覚ました。彼女はベッドに横たわったまま、天井から吊られた模型の飛行機をじっと見ていた。彼女はジュリアが日曜の午後を子供達と共にショッピングモールで過ごしていることを考えた。そして自分が同じようにする所は想像できないと思った。彼女はヘンリーの働いている化学工場と母の職場である郊外のコールセンターについて考えた。母はそこでクレジットカードの問題について遠方からかかってきた電話の声に対応して1日を過ごすのである。レベッカはニューヨーク・シティについて考えた。あの騒がしい通り、歩道の人混み、彼女のアパートメントの近くにあった小さな韓国料理店、35番街のカフェの男の子。
 それから彼女はトレイシーのことを考えた。彼はいつまでも23歳のままだった。彼女は2人が小さかった頃にどうな風に口喧嘩をしたのかを思い出した。そうした時、母は良心的に仲裁してくれた。そして父が出ていった時、2人は喧嘩することをやめたのだった。なぜ喧嘩をしなくなったのだろう?そしてなぜ母は、トレイシーの死後、自分に対してあまり口をきかなくなったのだろう。レベッカは無力さが突き上げてきて、彼女を押し流していくのを感じた。
 まだ5時にもなっていなかった。家は静まり返っていた。彼女はベッドを出て、静かに荷物をまとめた。なぜそう決心したのだろう?自分でも分からなかった。しかし彼女は母とヘンリーに書き置きを残した。「ごめんなさい。家に帰ることにしました」
 彼女はキッチンのテーブルにメモを置いて、玄関からそっと出ていった。彼女はデトロイト行きの始発バスに乗るため、街の方へ12ブロック歩いた。そしてデトロイトで乗り換えてニューヨークに戻るのだ。


[単語・熟語 level A]


[単語・熟語 level B]


[解答]
(1) エ
(2) ア
(3) 廊下を進むと
(4) ア
(5) ア
(6) エ
(7)(a) エ
(b) カ
(c) オ
(c) イ
(8) more than she had been as
(9) イ
(10) 生まれ故郷の町や家族や友人に違和感を覚え、ニューヨークこそが帰るべき場所だと感じるようになった。(48字)
(11) エ


[解説]
*解答をE-mailで送って頂ければ採点して返信します。E-mail:info@exclusive-academia.com

問題表示

総合問題一覧へ戻る

exclusive-academia topへ戻る





プライバシーポリシー © 2008.エクスクルーシブ・アカデミア〜exclusive-academia〜 All rights reserved.