東大卒プロ講師限定の家庭教師派遣
エクスクルーシブ・アカデミアexclusive-academia
E-mail:info@exclusive-academia.com


東京大学過去問2009年(5) 解答


[全訳]
 人間がお互いを騙すためにどのような手段を取るか、ということについて私が記事を書いているのだと聞くと、多くの人がよろこんで、嘘つきを見破り方を教えてくれる。何人かの友人は、嘘つきはいつも左を向いていると言うし、飛行機の隣に乗り合わせた男性は、嘘つきはいつも口を手で隠していると言う。嘘つきの外見についての俗信は無数にあり、時として互いに矛盾している。曰く、嘘つきは落ち着かないから、全く動かないから、脚を組んでいるから、腕を組んでいるから、上を見ているから、下を見ているから、目を合わせるから、目を合わせようとしないから、という理由で見破れるというのである。フロイトは、指の動きをつぶさに観察すれば、誰でも嘘つきを見破ることが出来ると考えていた。ニーチェは『口は嘘をつくかもしれない。だがそれでも顔は嘘をつけない』と書いている。
 嘘を見破るのが得意だと自認する人は多いが、研究は別の結論を示している。専門的な訓練を受けた人は嘘つきを正確に見抜くことが出来る、と考えるのは誤りである。一般的に言って、裁判官や税関の職員のような嘘を見破るプロであっても、実験をすれば、偶然に任せるのとほとんど変わらない。言い換えれば、専門家でさえ、単にコイントスで決めるのと、正答率がほとんど変わらなかっただろうということだ。
 誰が嘘をついていて、誰が嘘をついていないかを見破るのも難しいが、何が嘘で、何が嘘でないかを見破るのは、私達が一般に考えているよりも、ずっと難しいものである。『誰もが嘘をつく』とマーク・トウェインは書いた。『毎日、毎時間、起きていても、寝ていても、夢の中でも、嬉しくても、悲しくても』
 1つには、何かを言わないことで成り立つ嘘がある。例えばあなたが、妹とそのハンサムなボーイフレンドを連れてディナーに出かけ、彼のことをいけ好かない男だと感じたとする。後になってあなたと妹が、その晩のことを話した時に、レストランについて感想を述べるだけで、彼について触れなかったとしたら、それは嘘をついたことになるのではないだろうか。彼の外見の良さについてだけ述べて、彼の攻撃的な性格について触れなかった場合はどうだろうか。
 次に、間違いだと知っている事柄を口にすることで成り立つ嘘もある。これらの多くは、他人と上手く付き合うために必要な、害のない嘘である。例えばあなたが要らないプレゼントを貰った時、あるいは嫌いな同僚からランチに誘われた時、あなたは辛辣な真実をそのまま伝えるのではなく、きっとこんな風に言うだろう。「ありがとう、素晴らしいプレゼントだよ」「そうしたいんだけど、歯医者の予約が入っているんだ」子供達に嘘をつくよう教えることもある。それは我々がマナーと呼ぶものである。隣人が機械的に「How are you?」と尋ねた時に、こちらもまた無意識に「fine」と応じるようなやりとりも、突き詰めれば、大体嘘である。
 もっとシリアスな嘘というものも存在し、それには様々な動機や意図がある。例えば、ライバルの行動について嘘をついて、その人がクビになるように仕向ける、といったものである。しかし、そうした場合以外では、全ての嘘が暴かれねばならないわけではない。我々人間は、存在するものをしないかのように、そして存在しないものをするかのように表現できる、アクティブで創造的な生き物である。隠し事をしたり、遠回しな言動をしたり、沈黙したり、公然と嘘をついたり・・・こういったことは全て、人間社会の平和維持に貢献しているのである。
 嘘をつくことを学ぶのは、成長の重要な過程である。子供が3歳か4歳くらいの頃に嘘をつき始めるのは、自分の頭の中で起きていることは他人の頭の中で起きていることと異なるのだという考え、言い換えれば、思考というものの原理を理解し始めているからである。そして両親に対して初めての嘘をついた時に、親子のパワーバランスが微妙に変化する。というのも今や、親の知らない何かを子供が知っている、という事態が始まったからである。新しい嘘を1つつく度に、子供達は、彼らを信じる人々に対して、少しずつ力を増大させていくのである。しばらくすると、嘘をつく能力は、彼らの感情的な総体のほんの一部でしかなくなる。
 嘘をつくことはあまりにも普通で、私達の日常生活と日常の会話の多くを占めているので、なかなかそれに気付かない。実際問題として、嘘をつくよりも本当のことを言う方が難しく、面倒で、煩わしいという場合が多い。結局、人を騙すことは、より高い知能への進化と結び付いた、1つの特性と言って良いのではないだろうか。
 目下、アメリカ連邦政府が、『信頼査定』を効率良く行うことのできる装置を開発しようとする試みている。言い換えれば、それは完璧な嘘発見器であり、『対テロ戦争』における国家のセキュリティレベルを引き上げる1つの手段である。しかし、国を安全にするためのこの試みは、全く予期していなかった形で、私達の日常生活に影響を及ぼすかもしれない。その新しく開発された装置は、本当に危険な嘘と、親切心から生まれた害のない嘘、あるいは利己的ではあるが危険性のない嘘とをどのように見分けるのだろうか。いつかテロ対策としてだけでなく、国家の安全保障とほとんど関係のない状況、つまり仕事の面接や税務調査や学校や男女関係において、真実でないことを見抜く装置が使われるようになったら、一体どうなるだろう。
 完璧な嘘発見器は、我々の生活を完全に変えてしまうだろう。すぐに私達は会話をしなくなり、テレビはなくなり、政治家は逮捕され、文明そのものが停止するだろう。このような装置は、それがうまく作動しなかった時のことだけでなく(そうしたリスクについて考えることに我々は慣れている)、うまく作動した時のことまで考えた上でなければ、性急に市場に出すべきではない。誰が誰に嘘をついているのか決して分からない、不確実性満ちた世界に生きるよりも、どこに嘘が存在するかが瞭然であるために、互いに真実しか話せなくなってしまう世界に生きる方が、困難かもしれない。


[単語・熟語 level A]


[単語・熟語 level B]


[解答]
(1) ウ
(2) イ
(3) than we tend to think to
(4) ア
(5) 存在するものをしないかのように、そして存在しないものをするかのように表現できる
(6) ア
(7) イ
(8) ウ
(9) エ
(10) 導入した装置がうまく機能しない危険性。
(11)(a) avoid
(b) protects
(c) maintained
(c) revealed


[解説]
*解答をE-mailで送って頂ければ採点して返信します。E-mail:info@exclusive-academia.com

問題表示

総合問題一覧へ戻る

exclusive-academia topへ戻る





プライバシーポリシー © 2008.エクスクルーシブ・アカデミア〜exclusive-academia〜 All rights reserved.