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■ 東京大学過去問2015年(5) 解答 |
[全訳]
レベッカはビジネスプランを立てて、融資を申し込み、本屋を開店する準備を進めていた。「本屋?」彼女の母のハリエットは言った。「教育があるのに店を始めるだなんて、しかも儲かる見込みすらない店だなんて。あんたの人生はどこに向かっているの?」 レベッカは傷付き、怒り狂った。2人は昔したような喧嘩をまたしたのだったが、このような喧嘩が今でも出来ることをレベッカが気が付いていなかったために、それは余計に悪化した。ハリエットが病を得てから、最近は長く平穏だったので、もう安全だと勘違いしていたのだ。レベッカは騙されたと感じた。 そしてハリエットはレベッカにかなり大金の小切手を送った。『本屋の足しに』とハリエットはカードに書いていた。 「こんな余裕はないでしょう?」レベッカは言った。 「やってあげたいの」ハリエットは答えた。 そして彼女はまた病気になった。 命に別状はない肺炎だったが、回復まで長い時間がかかった。レベッカは車ではるばる出かけ、ハリエットのためにチキンスープとバニラカスタードを作り、ハリエットのベッドの足下に寝た。 こんな風に何年も何年も過ぎている。ハリエットは病気にかかっては、また回復する。レベッカはやってきては、また去っていく。そうした中断の間に、彼女の人生は進んでいく。 レベッカは疲れている。ハリエットは病気になったり、回復したりを10年以上続けている。レベッカはボストンから、ハリエットが現在住んでいるコネティカット州の老人ホームまで、4時間運転してきた所である。彼女は小さな本屋から2日休みを取っている。休む間はパートタイマーのアシスタントに余計に給料を支払っている。彼女はハリエットの好きなものを詰め込んだショッピングバッグを持ってきている。彼女が部屋に入ると、ハリエットはほとんどテレビから目を逸らさず、ハローと言った。レベッカは椅子を引き出して、母と向かい合って座る。ハリエットは車椅子に座っている。麻痺がぶり返していた。それはこれまでにも起きていた。彼女は珍しい背中の持病があったが、今度は麻痺が完治することはないだろうと医者は言っている。 レベッカはもっと頻繁に母に会いに来ないことに罪悪感を感じている。ハリエットはいつも彼女の必需品について話している。ラベンダーの入浴剤や、靴下や、外に車椅子で連れていってもらう時に足にかけるブランケット。レベッカは郵送できるものは郵送する。時に心を動かされ、時にあまりに多くの要求に苛立ちを感じながら。 前回レベッカが訪ねた時、それはハリエットが老人ホームに移った日だったが、夕食のトレイが運ばれてくる前に、看護婦が大きなビニールのナプキンをハリエットの額に付けた。ハリエットはそれを許したが、この上ない茫然とした悲しみの表情でレベッカを見た。あの日受けた侮辱の中でも、彼女に喪失感を与えたのはこの出来事だった。「母にはそれは必要ありません」レベッカは看護婦に言った。 「これは皆さんに付けてもらっているんです」 「なるほど、でも私の母には必要ないんです」 このように食事の際に大きなビニールのナプキンを付けられることを拒否する事は、レベッカがその場に居合わせてハリエットのために勝利した小さなバトルの一つだったのだ。レベッカがいなくても、ハリエットは一人で立派にそれに勝利しただろうが。二人ともそれは分かっていた。しかし二人の間では、愛は証明され続ける必要があるのだ。愛はそこにあり、何度も何度も証明される。奇妙なことに、二人の酷い喧嘩のいくつかは愛の証明であり、同時に否定でもあるように思える。愛しあっていない二人の人間はあのように喧嘩をする事は出来ないだろう。少なくとも何度も繰り返すことができないことは確かだ。 およそ15年前、ハリエットは瀕死であるように見えた。彼女はステージ4の結腸ガンだった。レベッカは母が遠からず死ぬのだと信じ、その時初めて彼女の事を身近に感じるようになった。レベッカは時々、夜になるとベッドで泣いた。独りで、あるいはピーター・ビゲロウの隣で。ピーターはハーバード大学で建築史を教えていた。母を理解し始めたばかりなのに、まもなくその母を失ってしまうということがどれほど辛いかをレベッカが話す間、ピーターは彼女を抱きしめ、耳を傾けていた。 信じがたいことに、ハリエットは死ななかった。手術は成功し、彼女はさらに外科手術を受け続けた。レベッカは車ではるばるやって来ては、母と時を過ごした。しかし彼女は耐え続ける事ができなかった。世話をし、同情し、友情を感じ、母とただブラブラと時を過ごして目的のない喜びを感じ、テレビのニュースを見る。彼女は精根尽き果ててしまっていた。 ハリエットはレベッカの訪問回数が十分でないと感じるようになった。事実、彼女がやってくる回数は減っていた。しかし、ああ、その「十分」という言葉。その奇妙で罪深い響きの言葉は、母娘の間では口に出して言う必要さえない。なぜなら二人はその言葉が彼らの間に横たわっているのを目にする事ができるから。それは損なわれ、不平を口にしている、大きく暴力的な色をした傷である。 ピーターはレベッカに結婚についてどう思う、と尋ねた。彼は結婚したがっていた。それはプロポーズではなく、話し合いの端緒だった。彼女は分からない、と言った。実のところ、彼がそれを口にした時、彼女は胃のあたりに冷たい不快感を感じた。この愛らしく、優しく、思慮深い男性。彼女はどうしてしまったのか。彼が全てのことについてあまりに冷静であり、彼女に対して情熱的でなく、お前は俺のものなのだと強烈に求めることで自分を圧倒してくれない事に対して、レベッカは不安を感じ、また苛立っていた。一方で、彼女もまた彼を圧倒してはいないのだった。 その後、彼は本を書き終えて出版した。ある夜、彼はその本を一部持ってやってきた。彼女はシャンパンを一本用意して待っていた。「ピーター、出版おめでとう」彼女は彼にキスをした。彼女が本のページをめくると、自分の名前が目に飛び込んできた。『そして共に多くの楽しい時間を過ごしてくれたレベッカ・ハントへ』 これは控えめ過ぎないだろうか?この種の慎しみ深い表現は、互いに理解し合った二人の間に存在しうるのだろうか?彼女の求めていたもの。それは『レベッカへ。心の底から愛し、君のために死のう』というような献辞だった。 彼女は突如、自身のうちに何物かを見て、そして嫌悪した。これはハリエットから受け継いだものかもしれなかった。愛とは激しく、声高に、明白に宣言され、また証明されなければならないという剥き出しの信念だった。 |
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