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東京大学過去問2018年(5) 解答


[全訳]
 「ジェイニー、こちらはクラークさんよ。下の階の部屋をご覧になるそうよ」彼女の母は、ジェイニーが一語一語確実に読み取れるよう、極端なほどゆっくり、そして注意深く話した。ジェイニーはそんな事をする必要はないと母に何度も話したのだが、母は他の人の前であっても、その話し方を変えないので、彼女は恥ずかしい思いをしているのだった。
 クラークさんはジェイニーをじっと見ていた。彼はおそらく、母の話し方からしてジェイニーの耳が不自由なのではないかと、疑っているのだ。ジェイニーの耳が聞こえない事を前もって話しておかないのが、いかにも母らしいやり方だった。彼は疑念を確かめるため、彼女が話すかどうか見ようと待っているのかもしれない。彼女は彼女が黙っている理由を、彼の判断に委ねたままにしていた。
 「クラークさんに部屋を見せてあげてくれる?」母が言った。
 彼女はまた頷き、背を向けた。彼は彼女についていった。階段の正面下部にベッドルームが一つあった。彼女が扉を開けた。彼は彼女より先に部屋に入り、振り返り、彼女を見た。彼女は彼がじっと見つめるので、ますます居心地が悪くなっていた。彼が自分を女性として見ているようには感じなかったが。つまり、かつて彼女が適切な男性からならば、そうあって欲しいと望んであろう見つめ方を、彼はしてはいないようだったが。恋をするには自分は年を取りすぎてしまったと、彼女は感じていた。そうして過ぎ去ったものを彼女は嘆いたが、乗り越えていたのだった。
 「良い部屋だね」彼は手話で言った。「ここに決めたよ」
 ただそれだけだった。会話もなく、また彼女の耳が聞こえないことを彼がどうやって確信したのかについて説明もなく、彼がどうやって手話を学んだかについての説明もなかった。
 ジェイニーは母親の所に戻って、手話で質問をした。
 「彼は写真家なのよ」彼女は言った。またしても極端にゆっくりとした話し方だった。「世界中を旅して写真を撮ってらっしゃるそうよ」
 「何の写真?」
 「建築物よ」

********

 音楽は彼女の静寂への入口だった。彼女はまだ10才にしかならない頃、教会のコーラスを聴きながら、階段の上の玄関ポーチの端に座っていた。次の瞬間目眩がして、突如音楽の上に、仰向けに倒れこんだのだった。
 彼女は幾晩も眠り続け、静寂の中眼を覚ますと、そこは彼女の部屋であり、彼女のベッドだった。彼女は子供が誰しもそうするように、混乱して叫び声をあげた。母がすぐに駆けつけた。しかし何かが奇妙に感じられた、音がしなかったのだ。彼女は自分の声が聞こえなかった。彼女が「ママ!」と叫んだ声が聞こえなかったのだ。母はもう既に彼女の手を強く握っていたが、彼女はもう一度叫び声をあげた。そしてやはり静寂のみが残った。その静寂は、今彼女が生きている世界であり、もう何年もそうして生きているので、その不可視性の内にいることが不快ではなくなっていた。時としてそれが自分を助けてくれることもあると、彼女は考えていた。必要になればいつでも、引きこもることのできる隔絶した場所があるのだから。そしてそれが必要になる時は、実際にあった。
 床はいつも、母の怒りを伝導した。彼女がまだ小さな女の子だった頃、母と父が口論していた時、それに気が付いた。両親の言葉は彼女にとって、音としては存在していなかったかもしれないが、怒りというもの常に独自の揺動を持っているのだった。
 当時両親が言い争っていたわけを、彼女は正確に知ることはできなかったが、それはいつも彼女に関することなんだと、子供らしい感性で気付いていた。ある日母は、彼女が家の裏手の森で遊んでいるのに気付いた。彼女が母の後について帰るのを拒んだ時、母は彼女の腕を掴んで、木々の中を引きずって歩いた。彼女はついに引っ張り返して、母に叫んだ。言葉ではなく、悲鳴として。彼女の感じていること全てを、1つの大きな揺動として表現するような悲鳴だった。母は彼女の頬を平手で打った。彼女は母が震えているのを見て、母が彼女を愛していることを悟った。しかし愛は時として静寂のようなもので、美しいが、堪え難いものだった。父は彼女に言った。「お母さんはどうにも我慢できなかったんだよ」

********

 数週間後、クラークさんはジェイニーに言った。「僕の手伝いをしてくれないかい?」
 「もし私にできるのなら」彼女は手話で答えた。
 「建物について知りたいことがあるんだ。明日写真を撮る建物なんだけど。たぶん君ならその歴史について教えてくれるんじゃないかと思って」
 彼女は頷いた。些細なことであったが、役に立てたのが嬉しかった。それからクラークさんは、オークヒルのてっぺんにある古い屋敷に一緒に行かないかと彼女に尋ねた。「楽しいと思う。たまには外出しないと」
 彼女はキッチンのドアを見た。最初は自分がなぜそちらを向いたのか、自分でも分からなかった。おそらく彼女は、無意識のうちに、一瞬前まで理解していなかったことを、理解したのだ。母がそこに立っていたのである。母は彼の話を聞いていたのだ。
 ジェイニーは彼の方に向き直り、彼の唇を読んだ。「明日、僕と一緒に行こう」
 彼女は母が近付いてくる素早い揺動を感じた。彼女は母の方を振り返った。母は怒り、怯えていた。いつもそうであったように。ジェイニーは息を吸い込み、不恰好な囁きの中に、息で満ちた2つの単語を絞り出した。それは彼女の知る限り、病気の子供か瀕死の人のような発音だっただろう。「私、行くわ」と彼女は言ったのだ。
 母は驚愕し、彼女を見つめていた。ジェイニーがその声の中に残していた力を使ったという事実、あるいは彼女の言った内容、そのどちらに母がより驚いているのか、ジェイニーには分からなかった。
 「ダメよ。絶対ダメ」母は言った。「明日は家中のことで手伝ってもらわなきゃならないの」
 「違うわ」彼女は手話で言い、首を振った「その必要はないはずよ」
 「分かってるはずでしょ?本当に手伝いが必要なの。掃除しなきゃならないのよ」
 「掃除は明日じゃなくてもいいわ」彼女はそう言い捨て、母が応える間も与えず、歩み去った。


[単語・熟語 level A]


[単語・熟語 level B]


[解答]
(A)ジェイニーの耳が聞こえない事を前もって話しておかないのが、いかにも母らしいやり方だった。

(B)(29)= (e),(30)= (d),(31)= (a),(32)= (f)

(C)(33)=(d)

(D)(34)=(d)

(E)ジェイニーの母が感情を抑えきれず、言うことをきかないジェイニーの腕を引っ張ったり、頬を平手打ちするなどの高圧的な態度を取るのは、仕方がないということ。

(F)know something about the building, the ones I will photograph

(G)(35)=(d)


[解説]
*解答をE-mailで送って頂ければ採点して返信します。E-mail:info@exclusive-academia.com

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